IPS細胞って結局何がすごいの?
記事を読んでいただいてありがとうございます!
知探会ライターのヨコメンと申します。
現在某大学の薬学部に在籍しているので、医学・生物学を中心にこれから記事を出していく予定です。よろしくお願いします!
さて、今回の記事はタイトルにある通り2012年のノーベル医学・生理学賞を受賞したIPS細胞についてのお話です。
この記事を通してIPS細胞が何なのか紐解いていこうと思います!
目次
多機能幹細胞って何?
IPS細胞を理解するために知っておきたいのが
この多機能幹細胞という言葉です。
私たち人間は1つの細胞からスタートし、
成長して今の姿になるということはご存知だと思います。
生物のからだを形づくるためにその最初の細胞は“分裂”をくりかえし、その数を増やしていきます。
(人間はおよそ37兆個もの細胞から構成されていると言われています!)
しかし、ただ単純に分裂をするだけではいくら数を増やしてもただの肉塊にしかなりません...
皮膚の細胞と脳の細胞は違うものですが、元をたどれば1つの同じ細胞に行きつくわけですから、どこかのタイミングで役割が決定されなければなりません。
ここで登場するのが“分化”というステップです。
細胞がそれぞれ役割を持つようになることを分化といいます。
無職だった細胞がそれぞれ脳細胞や胃壁の細胞に就職していくイメージですね!
基本的に、一度分化してしまった細胞はもとに戻りません。しかし裏を返せば、
「もし分化する前の状態に戻せば、そこからどんな細胞や器官も作れるのでは?」
ということが言えるのです!
この細胞が分化する前のものを多機能幹細胞と呼びます。
これを再生医療に利用しよう!としたもののひとつがIPS細胞なのです。
もうひとつの多機能幹細胞“ES細胞”
IPS細胞のすごさを知るために、もうひとつ知っておきたいのがこの“ES細胞”です!
このES細胞は1981年にマウス実験で、1998年にはヒト細胞で制作法が樹立した多機能幹細胞のひとつです。
分化する前の細胞の一部(胚盤胞期の内部細胞塊)をとり出し、それを培養することですべての組織に分化させることができます。
ドーパミン生産細胞に分化させればパーキンソン病の治療、膵ベータ細胞に分化させれば糖尿病の治療といったように多くの難病を治療することが期待されています。
IPS細胞って結局何がすごいの?
先ほど紹介したES細胞と同じように、
IPS細胞も多機能幹細胞の1つです。
「じゃあES細胞と変わらないんじゃない?」
いえいえ、そんなことはありません!
ES細胞は分化する前の細胞(受精卵)から多機能幹細胞を直接採取するという方法で作りましたが、IPS細胞は“分化した後の細胞”から作ります!
つまり分化した細胞を若返らせ、そこからもう一度分化させるのです。
皮膚の細胞から肝臓を作ることが可能であり、極端な例にはなりますが男性から卵子、女性から精子を作り出すこともできるだろうと言われています。
これによりES細胞よりすぐれている点が2つ挙げられます。
①患者自身の体細胞から治療に必要な組織を生み出せるため、拒絶反応が少ない
②ES細胞は成長過程にある細胞(=そのまま成長すれば私たちと同じ人間になる)を使用するため倫理的問題が大きかったが、IPS細胞は体細胞であるためその問題を克服できる。
①の拒絶反応は、臓器移植などのときによく見られます。人間の体にウイルスなどの別の生き物が入るとそれを排除しようとする免疫が働きます。
同じ人間の臓器であっても拒絶反応を起こしてしまうため、ドナーを慎重に選ぶ必要があるのです。
IPS細胞から作られる臓器は自分自身の遺伝子なので、この拒絶反応が起こりにくいことが期待されます!
いかがだったでしょうか?IPS細胞があれだけ注目された理由、また再生医療について少しでも理解を深めることができたでしょうか?
では次回の記事もお楽しみに!
(ヨコメン)
出典:「図解/微生物学・感染症・化学療法(南山堂)」「衛生薬学/基礎・予防・臨床(南山堂)」